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新しい学習指導要領と図工の時間

教育課程検討委員会『新しい学習指導要領と図工の時間』について

名称未設定.jpg これまでも、東京都図画工作研究会では、「教育課程」が改訂される毎に、特別委員会として「教育課程検討委員会」等の委員会を設置し対応してきました。このたびの「教育課程検討委員会」は、平成19年度に会長の諮問機関として設置され、平田耕介委員長を任命し、各地区から委員を選出し、2年間に渡って、図画工作教育の現場の視点から、教育課程の改訂に関して検討して参りました。
 平成19年度は、当初の予想よりも新学習指導要領の告示が、遅れたこともあり、「東京都における図画工作科の実態を把握するためのアンケート調査」をおこない検討しました。さらに、平成20年度は、「新学習指導要領」に示された大綱的な内容を学習指導の具体的な事例に即して、検討しました。
 本冊子『新しい学習指導要領と図工の時間』(注1)は、それらをまとめたものです。都図研会員諸氏におかれましては、本冊子をご活用いただき、授業改善の一助としていただければ幸いです。また、教育課程検討委員会の委員の皆様には、ご多忙の中、2年間に渡って活動をお願い致しました。この場を借りて御礼申し上げます。

平成20年12月16日
東京都図画工作研究会
会長 辻  政 博

(注1)このページは平成20年12月16日に東京都図画工作研究会より発刊された冊子「新しい学習指導要領と図工の時間」をWeb用に再構成しました。

意識調査

1・意識調査で何がみえてきたのでしょうか

教育課程検討委員会では、全都の図工専科教員の意識調査を実施。

*実施期間
平成19年9月11日〜10月31日
*対  象
都内区市町村小学校図工専科(時間講師除く)
*調査方法
各地区の図工部にて集計後、特別委員会にて総集計。(一部町村島嶼は個別調査)
*回 答 数
全1279校(都図研名簿より)中876校(回答率68.5%)

①私たちが図工で大切にしていること

●子どもに身につく力は「創造力」

名称未設定1.jpg
 このアンケートによると多くの皆さんが「創造力」を図工で育てる大切な能力と考えています。創造力とは、新しいものをつくりだす力のことです。図工では、子どもたちが、形や色、物の質感を介し、人、もの、場所などにかかわりながら、創造力を身に付けていきます。さらに、他にあげられたコミュニケーション能力などのさまざまな力も図工を通して培っていく大切な能力です。図工は、創造力を軸として、さまざまな能力を培う教科と考えられます。

②現場はこう変わってきました

●大きな世代交代がはじまっています

名称未設定2.jpg
 団塊の世代が退職し、経験年数10年以下の先生方が、ここ数年で半数近くになると予想されます。私たちは、これまで60年に渡って培ってきた図工教育のノウハウを次世代に伝えていかねばなりません。都図研では、日々の実践につながる研究や研修を通して、図工の専門性や子どもをみる目を高めていきたいと考えています。教師の指導力の向上が、よりよい授業を創造していくのです。

●図工の年間授業時数時数は、不十分である

名称未設定3.jpg
 回答の9割以上が「十分ではない」と答えています。今回の改訂では、平成10年に時間数が削減されたままの現状維持となりました。このままでは、一年間を通した子どもの育ちに寄り添うような教科指導が十分にできません。
私たちは、週に一度(2時間)の図工の時間を一年間継続しながら経営していくことが、子どもの成長を保障すると考えます。そして、図工教育の大切さを保護者や地域などに発信していくことが大切です。

新しい学習指導要領

2・新しい学習指導要領に対応して

 新学習指導要領が示している図工教育の理念や目標と私たちの現場の子どもたちや学校の実態をリンクさせながら、よりよい授業のありかたを考え、具現化していくための試行錯誤が必要です。

①図画工作科が大切にしてきたもの

 教科目標の「感性を働かせながら」という一文は、さまざまな身体的な感覚やそれにともなう認知など、「知性」に加えて「感性」を十分働かせる図工の教科の特性を明確に示しています。また、基礎的な能力を「育て」が「培う」に変更されている点では、「栽培」という語義の連想からも、より一層、子どもがもつ「資質・能力」を引き出すことが重視されていると考えられます。子どもが形や色に表すことの楽しさを実感しながら、自らその能力を伸ばしていくことの重要性の指摘がそこにあります。基本的には、以前の目標を踏まえ、より一層、子どもの資質・能力を開きながら、豊かな情操を培っていくことが目標となっています。

新目標
表現及び鑑賞の活動を通して、感性を働かせながら、つくりだす喜びを味わうようにするとともに、造形的な創造活動の基礎的な能力を培い、豊かな情操を養う。
旧目標
表現及び鑑賞の活動を通して、つくりだす喜びを味わうようにするとともに造形的な創造活動の基礎的な能力を育て、豊かな情操を養う。

②図工で培う「資質・能力」

図工の学習というと絵の「描き方」や物の「つくり方」といった即物的な方法論に目が行きがちですが、そうした方法論を踏まえながらも、そこで働く資質や能力に目を向けながら学習指導の改善を図ることが大切です。

  • 子どもが進んで活動に取り組むための「関心、意欲、態度」
  • さまざまな思いに満ちた「発想や構想の能力」
  • 試行錯誤しながら得る「創造的な技能」
  • 自分や友だちや文化を感じ理解するための「鑑賞の能力」

などの「資質・能力」をめざしながら、図工は「生きる力」を培っていきます。また、子どもが授業のプロセスで働かせる「資質・能力」の見取りも重要になってきます。

③わかりやすくなった記述

 今回の改訂では、「教科目標」「学年の目標」「内容の構成」「領域」「項目」「事項」「共通事項」などの概念や分野が整理統合されて関連付けられ、わかりやすい記述となりました。
 また、「材料用具」が「第4章指導計画の作成と内容の取り扱い」に移され、発達の段階に応じた具体的な指導のめやすが明確になり、題材の組み立てが円滑にできるようになりました。私たちは、具体的な授業や題材を設定していく際に、現場の実態に対応させながら、新学習指導要領を活用することで、より説得力のある授業が実現できると考えます。

④〔共通事項〕が示されました

 表現と鑑賞の活動において共通に働いている資質や能力を示した〔共通事項〕が新設されました。これは、形や色などの特徴をとらえたり、イメージをもったりする能力であり、造形活動の基になるとともに、情報を的確にとらえ、主体的に判断するコミュニケーション能力の基盤となるものとされています。子どもたちの活動を具体的にとらえ、造形的な創造活動の能力を育てるための視点として加わりました。また、〔共通事項〕は、小中連携の基盤ともなります。

●日頃の実践から〔共通事項〕を考えました

自分の感覚や活動を通して
名称未設定11.jpgこねてどろどろ! 絵の具を混ぜたら色が変わったよ名称未設定12.jpg板を彫るときのサックとした感じが気持ちよくなってきた
形や色、組み合わせなどを基に
名称未設定9.jpg描いたものが、うかんでくるよ名称未設定10.jpg洞窟の中の家、 ここは紙の切り貼りにしようかな

●自分の感覚や活動を通して、形や色、組合せなどの感じをとらえること、自分のイメージをもつこと

名称未設定4.jpgこの2人はね…絵の具を混ぜたときの色の変化をとらえる感覚、材料用具を扱うときの物の手応えや感覚、切るなどの行為といった子ども自身の感覚や活動に視点を置くことで、日々の実践を見直すことができます。また、このような自分の感覚や活動を通して、子どもが形の特徴、色味、色の組合せによる感じ、面と面の重なりから生まれる前後の感じなどをとらえ、自分のイメージをもてるよう指導を工夫し、改善していくための視点になります。

Q:共通事項は評価するのですか
学習指導要領において、表現及び鑑賞の全ての活動を通して示された内容を指導するための[共通の事項]です。私たち教師が、題材を組み立てる上で、評価ではなく、子どもの造形的な資質や能力を充分に発揮できるための指導の手立てとして、常に、共通して考えなければならない事項です。

⑤「造形遊び」をもう一度考えてみましょう

●「造形遊び」の名称が、明確に位置づけられました

名称未設定7.jpg内容のA表現は「(1)造形遊び(2)絵や立体、工作に表す」の2つに分けられています。「造形遊び」は材料や場所(環境)に働きかけながら思いやイメージを広げていく活動で、「絵や立体、工作に表す」活動と表裏一体の表現活動です。「遊び性」を学習活動に取り込んだ「造形遊び」を通して、子どもたちの意欲や造形的な感覚は耕されていきます。「造形遊び」が果たす役割は、極めて重要です。

低学年
並べたり、つないだり、積んだりする。
中学年
切ってつないだり,形をかえたりしながら。
高学年
材料、用具の経験や技能を総合的に生かしながら。

⑥表現と鑑賞の充実を目指しています

  • 高学年:友人と話し合ったりして、表現の意図などをとらえる。
  • 高学年:自分たちの作品などに関心を持ち見方,感じ方を深める。
  • 高学年:友だちの表し方などに関心をもつ。

名称未設定8.jpgここ、どうやって描いているのかな? この色が、いいね  これまでと同様に、鑑賞活動の充実が求められています。鑑賞の対象については、材料や友だちの作品、身近な作品、地域の美術館の作品、伝統・文化などが示されています。鑑賞の取り組み方も、友だちと話す、話し合うなどの内容が記されたと同時に、表現と関連させて取り組んだり、作家との交流をもちながら鑑賞をおこなったりするなど、子どもたちと学校の実態に合わせてさまざまな工夫をしながら取り組むことが必要です。単なる知識の注入ではない、子どもの能動的な鑑賞活動が大切です。

子どもの活動

3・新学習指導要領と子どもの活動

 よりよい授業実践を図るために、5つの切り口から、新学習指導要領と具体的な実践との関係を再考しました。

材料から

名称未設定5.jpg大きな棒人間が横たわっているよ!造形活動にとって“材料”とは、子どもたちの「見方」「考え方」や「表現の始まり」を支える最も基本的なものです。
  “材料”は大きく分けて 自然材、 人工材、などがあります。活動の「目標 表現内容 授業の方法 子どもたちの実態」に合わせ、材料の選択をおこなうことが授業のカギとなります。子どもたちは、材料の大きさ・量・色・形・手触り・においなどを敏感に感じ取りながら活動を展開していきます。

低学年
砂の感触を生かして友達と楽しむ。
中学年
新聞を長く切って発想をひろげてつくる。
高学年
材料と周囲の様子を考えながら表現する。

思いを生かす

名称未設定6.jpg組み合わせていくと、新しいことを思いついたよ 「造形遊び」では、材料や場所にかかわる過程でその特徴や操作活動から、自分の思いやイメージを広げたり深めたり、また、「絵や立体、工作」では、子ども自身が感じたこと、想像したこと、見たことなどから、表わしたいことを表現していきます。そこには、形や色、イメージなどを手がかりに、材料の特徴や表し方や用具の活用などを試行錯誤し、生かしながら表現する子どもの姿があります。子どもの「発想や構想する能力」は、「創造的な技能」や「鑑賞の能力」と関連させながら指導を工夫することで、より一層の伸長を図ることができると考えます。

中学年:
形や色、材料などを生かして。
高学年:
表したいことに合わせて材料、用具の特徴を生かす。

創造的な技能を働かせて

名称未設定13.jpgのこぎりの使い方がわかったよ!子ども自身が表したいことに合わせて、材料や用具の特徴を生かしたり、自分が面白いと感じたイメージに適した方法を組み合わせたりしながら、造形活動を展開していくことが大切です。「創造的な技能」は、図工で育てる中核をなす能力のひとつです。

中学年
適切で安全な使い方を考える。
高学年
針金、糸のこぎりなどを表現方法に応じて活用する。
高学年
自分の感覚や活動を通して、形や色、動きや奥行きなどの造形的な特徴をとらえる。

かかわりながら

名称未設定14.jpg絵の中の子どもも握手しているんだ人や材料、場所にかかわることから、表現が広がったり、深まったりします。友だちとかかわりながら活動することで、一人では気付かないことを発見したり、つくる喜びを分かち合ったりすることができます。また、活動の過程で作品の経過を見合ったり、完成した作品について感じたことを話したり、聞いたりすることによって、さまざまな表現のよさや面白さなどを知ることができます。

低学年
感じたことを話し合って、表し方の面白さに気づく。
中学年
相談しながら、切ってつないだり形を変えたりしている。
中学年
手や体全体を働かせて、感じたことを話し合っている。

共感的な指導

「学習指導要領」には、私たちが題材を組み立てたり、教育課程を編成したりするための基準が示されています。私たちは、学習指導要領を基に子どもたちの実態に配慮しながら題材を組み立てる必要があります。一人ひとりの子どもを理解し、造形的な資質や能力が、自然なかたちで引き出される指導が求められます。
例えば、

  • 活動の過程を見つめる。
  • 子どもらしいこだわりや言葉に寄り添う。
  • ねらいを明確にしながら、子どものさまざまな表現や活動を受け入れる。

などがあげられます。このことを踏まえながら、教師も子どもとともに感性を磨き、図工の授業で子どもが自分への自信を実感できる、豊かな時間を創造したいと考えます。

あとがき

あとがき〜これからの図画工作科〜

「学習指導要領」を踏まえた現場の実践が問われます

教育課程検討委員会では、2年の経過を経て、現状と課題を整理してきました。「学習指導要領」は、具体的な題材や指導法を記述したものではありません。具体的な方策は、その内容を理解しながら私たちが実践を通して創りあげていかなければならないものです。そのためにも、それぞれの教育現場で実態に合った題材の組み立てと子どもの内にあるあらゆる力を柔軟に見つめていく姿勢が私たちに必要です。形や色を介しながら、嬉々とした表情で体全体の感覚を働かせている子どもたちに「図工の時間」を保障していくために、何が子どもの力になっているのかを具体的な実践から検証していかなければならないと考えます。

メンバー

会長    

辻 政博(文京・誠之小)

担当副会長 

鈴木陽子(目黒・五本木小)

委員長   

平田耕介(墨田・押上小)

委員 

鶴内秀一(小平・小平第十四小)
吉岡琢真(八王子・八王子一小)
志水洋(江戸川・六葛西小)
渡邊梨恵(葛飾・葛飾小)
小林尚子(江戸川・一之江小)
内田佳代子(目黒・八雲小)
榎本 稔(文京・青柳小)
麻佐知子(新宿・四ッ谷六小)
小林恭子(中野・江古田小)
曽根玲(品川・中延小)
佐野真一(豊島・南池袋小)
高野ゆかり(千代田・和泉小)
大杉健(府中・若松小)
草野桂子(多摩・連光寺小)
菅野利之(羽村・栄小)
鈴木裕二郎(荒川・三日暮里小)

顧問(助言者)

鈴石弘之 (前都図研会長)
横内克之 (新宿・花園小)
鷲尾礼子 (都図研参与)